熱処理前にどのくらい磨くべきなのか?
ナイフ作りを始めて、「そろそろ熱処理出してもいいかな…」という時に気になるのは、一体どのくらいの番手まで仕上げてから熱処理に持っていくべきなのか、というところ。
これは製作する環境によって大きく変わります。
ベルトサンダーで製作する人は#220で充分
ベルトサンダーで製作している人は、#220のベルト目までで十分です。
ベルトサンダーでの作業の場合、熱処理を施して硬化した後でも研磨してベルト目を上げていくことができます。なんなら、熱処理による小さな歪みを取って後工程に進むことが出来るわけです。最終的に #1200相当のトライザクトA-6 までブレードを研磨できればそのあとの手作業が圧倒的に少なくなり、作業時間を大幅に減らすことができます。
ヤスリの人は#400~#600まで
一方でヤスリをメインで製作している人は、熱処理前に耐水ペーパーやオイルストーンで最低限 #400~#600くらいまで番手を上げておくことをお勧めします。それは、ベルトサンダーとは違いヤスリ目が残っていたり、#220程度で熱処理されたブレードを手磨きしていくことはあまりにも大変だからです。
熱処理前の焼きなましされた鋼材であれば傷を消すことは容易で、比較的短時間でヤスリ目を消していくことが出来ます。ですから、柔らかいうちに番手を上げておくことがそのあとの作業を楽にするコツなのです。
もちろん、ベルトサンダーで製作している方でも研削後、手磨きで#600程度まで上げておくことも工程を早く進めていくために有効です。
ブレードの磨き方についてはこちらの記事もご参照ください。
熱処理前に仕上げない理由
だったら熱処理前に#2000とかミラーフィニッシュまで終わらしておけばいいと思うかもしれませんが、そうしない理由が2つあります。
理由の1つ目は、不意に傷がつくリスクの回避です。熱処理前の鋼材は大変柔らかく、研削や研磨がしやすい状態になっています。ということは、逆にちょっとのことで深い傷が付きやすい状態と言えます。ですから、例えば#2000まで磨き上げたとしても、台の上に置いてズレたりするだけで傷がついてしまったりすることがあるんです。
そしてもう1つの理由は、鎬(しのぎ)がダレれてしまう事です。
前述したように熱処理前の鋼材は大変柔らかく、ちょっと研磨しただけで簡単に形が変わってしまいます。そうすると、ブレードの切り立っていて欲しい鎬(しのぎ)の部分やブレードの立ち上がりのR部分がちょっとしたことで簡単にぼやけて消えてしまうんです。
ブレードと鎬の境界線がパリッとしている所がカスタムナイフの見せどころの一つでもあります。そこをばっちり表現するためには熱処理後に仕上げた方がブレードが固く作業に時間はかかるものの美しい仕上がりを実現することが出来るわけです。
ちなみに、鎬をキッチリ出すためには耐水ペーパーを使うよりオイルストーンを使った方がやりやすいので、是非お試しください。
というわけで、タイトルである「熱処理前にどのくらい磨くのか?」という質問の回答は、#400~600くらいが最適。というのがMatrix-AIDAの結論です。
例外は耐摩耗性の高い鋼材
もちろん、これには例外があって、CV-134やMagnacut、CPM S35VNなどのような耐摩耗性が異様に高い鋼材に関しては、熱処理前に出来る限り仕上げておくことが大切です。熱処理してしまうと地獄のような研磨作業に追われることになりますので、耐摩耗性の高さをうたう鋼材に関しては、最低限、熱処理前に#1000以上に仕上げておいてください。なにとぞご注意ください。